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作り手によるドキュメンタリー批評

作品紹介

松林要樹監督 おすすめ配信ドキュメンタリー!

松林要樹 (映画監督)

日本じゃあまり知られていなドキュメンタリーの巨匠とあえて書く。
ここ最近どこにも行かず、家に籠っていることが多いが、そのような状態で映画を作った作家がいる。
今回紹介するのはその映画。

『Russia from my Window』

ロシアの巨匠 ヴィクター・コサコヴスキー(Viktor Kossakovsky)

―――

2012年1月にインドのコルカタで行われたドッグエッヂというピッチのワークショップ。
自分がピッチというシステムを知ったのがこのコルカタだった。
3分程度の予告を作って5分間プレゼンをする。
あるフォーマットに沿っていかにうまく企画をプレゼンするのかということだ。

そこに講師としてやってきていたのがヴィクターだった。
自己紹介をするや否や「オレは悪い刑事訳だからな、お前ら徹底的に絞ってやる」とすごんだ。
ヴィクターはディレクター兼カメラマンをこなしていると自己紹介し、
「カメラは筋トレみたいなもんだから、毎日鍛錬をすればある程度のレベルにはなるが、その先は、天と地ほど違うんだ。だから俺のカメラは最高なんだ。普通の人はカメラマンと組んだほうがいいんだぜ」と言っていた。

ワークショップでヴィクター自身はあまりピッチをやりたくないと言っていたが、トレーラー映像を使わずにIDFAで伝説のピッチを行ったという話もある。

教室には「俺こそが今世紀最大の巨匠になるんだ」と鼻息が荒いアジア出身の20代から30代の若手の作り手が集まっていた。
正直、その時はインドなまりの英語が7割くらいしか分からず、何かなじめないまま座っていた。

そこで、各々が自分のトレーラーをヴィクターに見せる。
皆くそみそに言われている。
自分の番になった。

「おい、お前は学校で映像を学んだ口か?そうじゃないだろ、下手すぎる。お前の下手なカメラじゃだめだ、一流のカメラマンと組んで仕事しろ。ドキュメンタリー出身のカメラマンじゃなくてフィクションを中心に撮っているやつと組むようにしろ。」

ただ、同じようにくそみそに言われ腹を立てている同世代の映画監督の中に混じっていると、なんだかアホらしくなった。

夕方、マスタークラスで彼の映画が上映された。
「Vivan las Antipodas! 」という世界中の対蹠地(たいせきち)をめぐり
相似形を撮った風景映画だったが、かなり面白かった。

映画を見終わった後、ヴィクターはその辺に座っていたインドの学生をいじってたので、彼の人間性には一寸も引かれなかった。

昼間はみなさんヴィクターにいろいろと言われて気分が悪くなった人もいたが、
映画の上映後はヒーローみたいにもてはやされるヴィクターがいた。
なぜか自分の前にヴィクターが来たので、

「映画は最高だけど、あんたの人間性って最悪だよね。」

そう言ったら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、ビール瓶をラッパ飲みしてそこから去った。

翌日のマスタークラスで、
「昨日、オレに映画は面白いけど、人間性が嫌いだと言ってきた野郎がいた。それが悔しくて夜中眠れなかった。」

と言っていたので、自分はしてやったりだと笑った。

―――

彼の映画はそれほど面白いです。

おまけ(同じヴィクターの作品)
『Svyato (documentary short)/Svyato』 (2005)

Svyato from sharingvideos on Vimeo.

息子に初めて鏡を見せる日の反応を撮っています。この日まで息子に鏡を見せなかったから散髪もさせていない状態だったということを聞き、ここまで徹底しないといい映画は撮れないんだなあと痛感しました。


松林要樹

1979年福岡県生まれ。2009年に戦後、タイ、ビルマ国境付近に残った未帰還兵を追ったドキュメンタリー映画『花と兵隊』を発表。2011年「相馬看花-第一部奪われた土地の記憶」2013年『祭の馬』、2015年『Reflection』(Vimeoで公開中) 、2016年ブラジルへ留学。2019年12月NHK-BS-1スペシャルで「語られなかった強制退去事件」が放送される。


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